2006年12月08日 08:20
トヨタといすゞ (財務/村藤)
以前、中央青山監査法人が二つにわかれて
「あらた」と「みすず」になったという話をしましたが、
今日は「トヨタ」と「いすゞ」という話をしたいと思います。
■ トヨタといすゞの資本業務提携
先日、トヨタといすゞが
資本業務提携を行うことを発表しました。
これによりトヨタはいすゞの筆頭株主である三菱商事、
第二位株主の伊藤忠商事から、
計5.9%のいすゞ株をおよそ440億円で買うことになりました。
結果として、トヨタは三菱商事、伊藤忠商事に次ぐ
いすゞの第三位株主となります。
トヨタがいすゞ株取得に動いた大きな理由は、
いすゞが高いディーゼルエンジン技術を
持っていることにあります。
つまり、低燃費のディーゼルエンジンを
いすゞと共同で開発・生産し、
ディーゼルエンジンの世界においても
勝ち組になろうという思惑があるのです。
いすゞのディーゼル技術を取り込み、
3年以内にディーゼル車としての商品化を目指します。
■ 資本業務提携の経緯
いすゞはもともとGMと資本提携していました。
しかし、みなさんご存知の通り、
現在GMは財務的に大変な苦境に立たされています。
そのため保有する色々な企業の株式売却を進めました。
いすゞ株もまた例外ではなく、今年の春、
持株の7.9%を売却するに至りました。
こうしてGMといすゞとの資本提携は解消されたわけです。
その売却先は三菱商事や伊藤忠商事でしたが、
三菱商事にしても伊藤忠にしても、
あまりたくさんの株を保有していても仕方がありません。
そのため、いすゞ株の行方が
どうなるのか注目されたわけですが、
そこに現れたのがトヨタだったのです。
実はトヨタは意思決定が遅いことで有名なのですが、
今回のいすゞに対する提携は、
7月に技術提携としてトヨタのほうから持ちかけ、
さらに資本参加に移行と、
スピーディーに事が進んだようです。
今回のトヨタの迅速な動きは周囲を大変驚かせました。
■ トヨタがいすゞとの提携を望む理由
いすゞは日野自動車に次ぐトラック業界2位で、
国内シェアの28.3%を占めます。
トラック排ガス規制に伴う特需は一段落し、
国内市場こそ伸び悩んでいますが、
中近東や南米などの資源国を中心に、
海外向けが引き続き伸びる見込みです。
タイにおけるトラックの生産能力増強など、
海外の事業基盤を整えてきたことが、
成果を見せ始めています。
また、いすゞは乗用車用のディーゼルエンジンを
国内で初めて開発した企業で、
排気量1700ccから6600ccまで
幅広いディーゼルエンジンを持っています。
低燃費や環境維持などにたいへん定評があり、
GMやルノーなどもいすゞのエンジンを採用していると言います。
トヨタとしてはこのディーゼル技術が欲しくて仕方ないわけです。
背景にはエンジン戦略の軌道修正があります。
トヨタと言えばプリウスに代表されるハイブリット車。
実際、国内にとどまらず、アメリカなどにおいても
たくさんのハイブリット車を売ってきました。
しかしそのアメリカにおいて、植物原料の
エタノール車を普及させるような動きが拡大しています。
また、欧州ではディーゼル車が
たいへんな勢いで拡大しています。
地球温暖化の原因として大きな問題となっており、
世界的に排出削減が取り組まれている二酸化炭素ですが、
ディーゼルはガソリンと比べると、
その排出量が2、3割程度少ないのです。
現在、欧州における市場販売の半分がディーゼルという状況です。
さらにトヨタに危機感を抱かせたのは、
ホンダがディーゼル技術を大きく向上させてきたことでしょう。
このたびホンダは、クリーンな
新型ディーゼルエンジンを開発しました。
2009年にアメリカの廃ガス規制というものが発効するのですが、
その基準があまりに厳しく、どの企業も
クリア出来ないのではないかと思われていました。
ところが、ホンダがその基準をクリアするという宣言をしたのです。
こういった背景のもと、
ハイブリッドに傾斜しすぎる戦略にはリスクがあると判断、
ディーゼル分野での強化を図りたいと考えたトヨタは、
慌てていすゞとの資本業務提携に乗り出したというわけです。
尚、日産がいすゞのディーゼルエンジンを狙い、
いすゞの株式取得に動いたという経緯もありますから、
今回の提携において、いすゞもまた
買収の脅威に対抗できるという大きなメリットを得ることになります。
■ GMの停滞とトヨタの躍進
そもそもGMとしては、
そんなに大切な提携先の株式を売却し、
トヨタなどのライバル企業に購入されることを
好ましく思うはずがありません。
財務的な困難さえなければ売却するはずはないのです。
たとえば、いすゞはGMとアメリカオハイオ州と
ポーランドにディーゼルエンジンの合弁会社を持っています。
今回いすゞはGMとの資本提携解消や
トヨタとの資本提携の結果として、
GMの保有する60%の株式を
トヨタに売却してもらうことを依頼しましたが、
GMはその回答を留保しています。
GMはかつてスズキとも資本業務提携を結んでおり、
スズキ株の20%を保有していましたが、
財務上の理由から17%を売却、
現在は3%を残すのみとなっています。
GMもさることながら、スズキとしてもできれば
GMとの関係を維持したかったため、
GMの売却した17%を今年3月から1年間は
自社株として保有することにしました。
これは、GMの財務状況が改善し、
再びGMがスズキ株を取得したいと考えた場合に備えて
ということだったのですが、
GMの経営はなかなか改善の方向に進まず、
スズキとしても困っているという状況です。
その一方で、ガソリン高を背景に、
特に北米における低燃費車販売で
業績を伸ばしているトヨタが、
ついにトップのGMを捉えつつあります。
2005年の自動車販売数は約800万台で二位、
GMに迫りつつあります。
2006年9月中間決算で売上は
15パーセント増の11.5兆円に達しています。
営業利益も35パーセント増で、
半期でついに一兆円超えを達成しました。
2007年3月末で、売り上げは10%増の23.2兆円、
営業利益は17%増の2.2兆円の見込みです。
売り上げにおいても、
世界一のGMと肩を並べる可能性が出てきています。
今回のいすゞとの提携により、
トヨタはディーゼル分野においても躍進が期待できるでしょう。
今後の自動車業界のグローバルな動向は、
大変興味深いものがあると思います。