2007年05月14日 07:40
イノベーションとは何か (イノベーション・マネジメント/永田)
私は九州大学ビジネススクール(QBS)で
「イノベーション・マネジメント」と
「知識マネジメント」の講義を担当しています。
今回は第1回目でもありますので、
私のこれまでの経歴の紹介も含めて
「イノベーション」という言葉の意味について
お話したいと思います。
■イノベーションとの関わり
私は九州大学に参ります前には、
石川県にある
北陸先端科学技術大学院大学という
国立の独立大学院の知識科学研究科というところで、
現在と同じくイノベーションに関する講義を
中心に教えていました。
またその前には、文部科学省の
科学技術政策研究所という国立研究所で
主任研究官という仕事をしていたこともあります。
そこは日本国全体としての
科学技術政策を策定する為の理論的な研究や、
実証的なデータの分析などを行っている所です。
そうした仕事を通じて、
大体一貫してイノベーションに
関連する研究をやってまいりました。
現在でも文部科学省の
科学技術政策研究所の方では
総括主任研究官という1つのグループの
総括の任にあたっております。
そういう国のイノベーションに関連する政策研究に
関係してきたというのが私の背景だと言えます。
■イノベーションが注目されている背景
最近、イノベーションという言葉の
メディアにおける露出度が
特に高くなっていると思います。
それにはいくつかの理由があると思われますが、
申し上げるまでもなくその1つは、
安倍総理が初心表明演説の中で掲げられた、
イノベーション25という公約でしょう。
これは、
2025年ぐらいまでを視野に入れた
成長に貢献できるようなイノベーションの創造を
長期的な戦略指針にすることを唱えたものです。
以後、イノベーション担当大臣が
設置されたことなどもあって、
とりわけ最近になって
イノベーションという言葉が、
広く使われるようになってきているのだと思われます。
それからもう1つ
次のような背景があります。
国の科学技術政策の基本的な方針というのは、
総合科学技術会議が策定する
「科学技術基本計画」によって定められています。
平成7年に科学技術基本法という、
科学技術政策に関する憲法のような
重要な法律が公布施行されまして、
これに基づいて以後5年ごとに基本計画が、
策定されるようになっていきました。
ちょうど本年度は、
その第3期計画の期首年度に当たっておりまして、
新たな基本計画がスタートしているわけです。
この第3期の科学技術基本計画の中で、
「絶えざるイノベーションの創出」という
政策目標が唱えられたことも、
イノベーションという言葉が
特に注目されるようになってきた
1つの背景だと思われます。
■イノベーションをどう理解すべきか
「イノベーション」というと狭義には
「技術革新」を意味する言葉として
理解されがちですが、
現在では政府の政策文書においても、
社会システムや制度の改革といった、
広い意味での革新を意味する言葉として使われています。
そのように広く「革新」を意味する言葉として
イノベーションを理解しておくとよろしいかと思います。
ただ日本では、
「もはや戦後ではない」という言葉で知られた
1956年の経済白書のなかで、
今後の経済成長の重要な要因として
技術革新の重要性が唱われて以来、
「イノベーション」を「技術革新」とする理解が
割合に広く普及してきたようです。
イノベーション25では、
技術革新によって実現されるべき
将来ビジョンが示されています。
特に国民の生活に関連する事項が
広く取り上げられており、
保健医療や環境問題など、
広い文脈でのイノベーションが志向されています。
他方では、やはり「国の競争優位」に結びつくような
産業技術の革新に関連する
政策目標も重視されてきています。
■イノベーションの類型
具体的にどのような革新が
イノベーションの範疇に入るのかといいますと、
例えばいま議論されている政策の中でも、
非常に様々なタイプのイノベーションが
取り上げられているわけですが、
伝統的には、ヨーゼフ・シュンペーターという
経済学者が提唱した次のような類型が知られています。
まずは新しい製品の開発・生産といった、
「プロダクトイノベーション」と呼ばれるタイプがあります。
それから既存の製品をより効率的に生産する
製法や工程の革新という意味で、
「プロセスイノベーション」というのがあります。
これらを総称して一般に技術革新、
テクノロジカル・イノベーションといってよいと思います。
しかし、シュンペーター自身それ以外にも、
例えば、新しい市場が開拓されるとか、
部品などの新しい供給源が獲得されるとか、
あるいは、そうした企業間の取引関係の構造は
産業組織と呼ばれるわけですが、
その産業組織そのものが革新されるということも含めて
イノベーションと考えていました。
ただ、イノベーションという
言葉が意味する革新の範疇を
あまり広義にかまえすぎてしまいますと、
行財政改革の中でいわれている制度改革も
全てイノベーションという言葉で
語らなければならなくなります。
政府がイノベーション25などで
推進しようとしている革新の中身も、
そこまで包摂しているわけではなく、
技術的な革新をそのコアの部分に持つ
革新として理解してよろしいかと思います。
そこで、今後の私のお話でも、
技術的なイノベーションを中心に取り上げ、
それが実現されるプロセスをどう理解したらいいのか、
それをマネジメントしていく過程はなぜ難しいのか、
そういうことを中心にお話しできればと考えています。