2007年05月22日 07:40
ナレッジマネジメントによるイノベーションの推進 (イノベーション・マネジメント/永田)
今回は、
ナレッジマネジメントによる
イノベーションの推進についてお話します。
まずは、ナレッジマネジメントという
言葉について説明していきましょう。
■イノベーションを遂行するための経営手法
ナレッジマネジメントというのは
一時期、非常に流行した経営手法です。
企業の内外にある様々な知識を共有し、
活用することによって
業務改善を図ってこうとする
一連の経営手法を総称して
「ナレッジマネジメント」といっています。
これまでのお話の中で、
イノベーションを創出する過程では、
企業内の多様な機能が
関与してくるということについて
触れたかと思います。
研究開発ばかりではなく、
生産、販売などもまた
イノベーションを遂行する上で
大変重要な機能である
というわけです。
そういう様々な機能を
有機的にイノベーションに
結びつけていくための具体的な経営手法として
このナレッジマネジメントによって確立された手法は、
有用ではないかと思われます。
その意味で今回はこのトピックを
取り上げてみようと思いました。
■ナレッジマネジメントの流行
ナレッジマネジメントは、
一時期ほどの流行現象は
みられなくなりましたが、
通常、企業の中で取り組まれている
改善活動のような、標準的な取組として
かなり定着したと思われます。
明示的に
ナレッジマネジメントに
取り組んでいる企業というのは、
どれくらいあるのでしょうか。
文部科学省の科学技術政策研究所が行った、
全国イノベーション調査というのがありますが、
その中で組織的な改革についての
調査も行われています。
それによりますと、’98年から2001年の間に
知識経営の実施に取り組んだ企業は
全産業平均ですでに20%あるということが知られています。
かなりの程度、普及してきたと見ていいでしょう。
■BPRの挫折
ナレッジマネジメントは
90年代の半ばくらいに、
主にアメリカにおいて注目された経営手法でした。
この経営手法が台頭した背景の1つとして、
’90年代の初めに非常に流行した
ビジネスプロセス・リエンジニアリング(BPR)の
挫折があげられます。
それは企業内部の情報の流れに注目して、
顧客満足度の向上という
1つの目的のために根本的に
業務プロセスを組み替えることを
主要な手法の1つとして用いるものでした。
そういう取り組みを
プロジェクトベースで推進するということが、
一時期、ずいぶん行われましたが、
ただ情報の流れに注目して
業務改善を図っていくという手法は、
概して無駄と見なされるものは
徹底して削減していく方向に向かっていきます。
それは組織そのものを
ダウンサイジングしていくことを正当化する上での
バック・ボーンになりましたし、
結果的に組織の無駄と見なされる部分が
切り捨てられていくということになったわけです。
しかしその結果、
実は組織内部にあった
重要な知識が外部に流出してしまって、
組織的な思考能力がかえって減退した
といった問題も生じました。
そういうBPRの挫折によって、
情報の単なる流れではなく、本当に意味のある、
価値ある知識に注目した経営手法が
新たに求められたということが
一つの背景としてあります。
無駄を無くすことは、
企業として当然していかなければなりません。
しかし、何が無駄なのかという事についての見方が
短期的にすぎたり、あるいは、
企業が持つ様々な経営資源に対する評価が、
非常に拙速になされたりすると、
その企業にとって本質的に
重要な競争優位の源泉となるような
資源が見損なわれてしまい、
それが切り捨てられるということが
起こるのです。
組織というのはよく、
生き物の様なものだといわれます。
生き物のようなものであってみれば、
切れば当然、血も流れるわけでして、
そういう痛みを伴う感覚が
BPRの挫折を乗り越えて
新たな経営手法を求める方向に
向かっていったのだと思います。
その挑戦に答えるものとして、
ナレッジマネジメントは
期待され、ある種の流行現象を迎える様に
なっていったのでしょう。
それは単なる情報の流れではなくて、
組織の内部に蓄積されている
知識に注目していこうとしてきました。
■情報と知識の違い
情報と知識が
どう違うのかについては
難しい哲学的な議論を伴い、
とても長くなりますので、
ここでお話しするのは、
おそらく避けておいた方がいいと思います。
ただ要するに、「知識」がある状態、
すなわち我々が「知っている」という状態は、
それ自体として定義的に価値のある状態を
意味しているのです。
例えば、
情報というのは、
我々がそれを活用しなくても
常にどこかで生成しているわけです。
けれども、知識があるという状態は、
それを保有している主体が
実際に活用し、コミットメントしていなければ、
そもそも認識できない状態なのです。
ですから、
知識という対象、あるいは
知っているという状態そのものについて
我々が語る時には、それ自体として
ある種の価値ある状態を
意味しているのだということを、
まず申し上げておきたいと思います。
知識は、つぎのようなタイプに分けて
論じられることがあります。
まず、例えば科学の公式であるとか、
製品の仕様のような形で
言語的に表現された知識があります。
これはよく「形式知」と表現されます。
文節化された、言語化された知識ということです。
一方で、
そのように言語化され得ない知識、
我々が五感を通じて
体得している知識というのがあるわけです。
例えば、技能とか熟練と呼ばれるものが
まさにそういう知識です。
そういった語ることの出来ないような
タイプの知識は、しばしば「暗黙知」と呼ばれています。
「知識創造企業」というコンセプトを提唱された
世界的に著名な経営学者である
一橋大学の野中郁次郎先生は、
この形式知と暗黙知の相互作用によって
新しい知識が産み出されるプロセスを
解明されました。
ところでイノベーションとは、
まさに新しい知識が創造されるプロセスに他なりません。
したがって、この理論的観点から
組織が知識を主体的に創造し
活用していくプロセスとして
イノベーションを理解し、分析することが
可能になってきているのです。