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2007年05月21日 07:40

特許戦略 (イノベーション・マネジメント/永田)

前回は、
イノベーションを
いち早く実現した企業であっても、
そこから得られる利益を
十分に回収できるとは
限らないというお話をいたしました。
それは、
模倣者(imitator)の存在であるとか、
あるいはイノベーションを具現化していく過程で
必要となる様々な資産に、
どういう条件でアクセスできるのかといったような、
多様な要因が関係するからでした。
イノベーションによる利益を
企業が自ら回収できる程度のことを
「専有可能性」と表現しましたが、
これを確保するための方法を考えていくことが
次の課題になります。


■知的財産権とは
専有可能性を確保するための
主要な方法の1つは、
その発明の権利を、
特許をはじめとする
「知的財産権」として確立することです。
そうするとライバルは
簡単に模倣するわけにはいかないだろう、
ということが考えられます。


知的財産権(intellectual property right)には、
発明の権利である「特許」だけではなくて、
例えば、実用新案、意匠、商標、
あるいは著作権など、
いろいろな権利が含まれています。
それら権利の保護を
強化していくことに対する政策的な関心が、
ここしばらくの間に
非常に高くなってまいりました。
そのような政策は、
特に1980年代以降にアメリカがリードする形で、
多くの先進的な産業国の中で
推進されるようになってきました。
とりわけ特許を重視する政策は
プロパテント政策と称されることがあります。


アメリカの場合ですと、
80年代の初めに
バイ=ドール法(The Bayh-Dole Act)
というものが施行されまして、
連邦政府の資金によって
大学が行った研究開発の成果を大学に帰属させ、
大学が知的財産権を産業部門に移転して
積極的に新しい産業の創出に貢献していく
という施策が推進されるようになりました。
あるいは、
特許紛争を専門に扱う控訴裁判所である
CAFC(The United States Court of Appeals for the Federal Circuit)が、
1982年に設立されました。
以後、
特許紛争で侵害が認められると、
場合によっては、
非常に巨額の賠償請求が命じられる
といったようなケースも増えてきました。


■日本へのインパクト
そうした動きの中で、
当初は日本の企業が、
特許紛争の渦中に巻き込まれる
という事が少なくありませんでしたので、
日本にとっても大きなインパクトが
あったと思います。


非常に大きなインパクトをもたらした
事例の一つは、
ミノルタとハネウェルの間に起こった
紛争の判決です。
これは自動焦点機構に関する
発明の権利に抵触しているとして、
ハネウェルがミノルタを訴えた事件でした。
92年に陪審員評決が出ていますが、
それは1億2,750万ドルもの
巨額の和解金を
ミノルタが支払わざるを得ないという
結果になったものでした。


これは、ある意味で、
強い特許を持っている企業にとっては、
「特許はビジネスになる」という認識を
新たにさせるような事件であったと思います。
一方で、従来、知的財産権の保護に対して
考えが甘かった企業は
知的財産戦略、
とりわけ特許戦略に対して
組織的な取り組みを強化していく
必要があるという認識を新たにせざるを得ない
そういうインパクトをもった
事件の1つだったかと思われます。


■特許出願の戦略的な考え方
従来から特許については、
それを持っているだけでは
競争優位を構築できないということが
強調されてきました。
例えば、
特許を取るということは当然、
発明内容の開示を伴いますから、
ライバル企業が、
同様の機能、効果などをもたらす技術を
その特許に直接抵触せずに
迂回的に発明することを
促進する1面があるのです。


そうすると、早晩、新規の発明は
ライバルによって模倣される事が避けられません。
そのため、先ほど申しました専有可能性を確保する上では、
単に権利を確立するだけではなくて、
いち早く製品を市場化し、
そしてライバルがキャッチアップしてくるまでの
リードタイムを出来るだけ長く取って、
その間に利益を上げるということが重視されてきたのです。


もともと日本の企業は、
非常に特許出願数が多いのです。
しかし、数多くの特許を取ったからといって
それで専有可能性が
ただちに高まるというわけではありません。
その特許をどう活用していったらいいのか、
どういう戦略的なパースペクティブで
特許出願を行っていくのか
ということについての構想が
そこでは必要になってくるわけです。


■何のためのマネジメントか
例えば、すでにある市場で
技術的な標準が確立されている場合には、
それを簡単に覆すことはできませんから、
その標準の体系のもとで
自社技術をできるだけ差別化するような、
そういうタイプの出願戦略が
必要になってくるでしょう。
一方、まだ標準的な技術が確立されておらず、
製品市場が流動的である場合には、
自社技術の地位を支配的にするために
コア技術を構築するような
出願戦略をとる必要があるでしょう。


つまり、
製品市場のコンディションによっては、
望ましい有効な特許出願戦略のあり方も
また異なってくるのです。
言い換えれば、
製品市場という環境に
適合的な事業戦略と、
また、それと整合的な特許戦略を
構築していく必要があるということです。


単に知的財産権を
確立するためにではなく、
知的財産マネジメントは
イノベーションを通じて
企業の成長を達成していくことを
目的に遂行されるべきです。
そのために
事業戦略のパースペクティブと
有機的に連携した
知的財産戦略を構想していく必要があると
申し上げられると思います。

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