2007年06月06日 07:40
経営学の中でのベンチャー企業論(ベンチャー企業/五十嵐)
今日は、ベンチャーの成功と生存というお話をします。
九州大学ビジネススクール(QBS)の学生の中には、
入学当初は起業なんてまったく意識していなかったのですが、
QBSで学ぶにつれて、
どうしても起業したくなり、
その中から、実際に修了と同時に、
あるいは在学中に起業する学生も大勢おります。
■スタンフォード・ビジネススクール修了生の目指すキャリア
最初に ベイエリア在住の知人から
教えていただいた笑い話を披露します。
優秀なビジネスパーソンを排出することで名高い
スタンフォード大学ビジネススクールですが、
卒業を控えたビジネススクールの学生達に
ある質問をします。
それは、「スタンフォードのMBAを取得したら、
どんなキャリアを求めるか?」
という問いです。
ビジネススクールの学生を成績の上位者から
A、B、C、Dと4グループに分けます。
そして、それぞれのグループに上の問いを投げかけます。
そうしたら…、
成績最優秀のAグループの学生からは、
「すぐにベンチャーを起業する」
という返事が返ってきました。
次いで、Bグループの学生たちからは、
「僕たちには、すぐにベンチャーを起こす技量はないので、
一度ベンチャーで入社し、経験を積んだ後に、起業するのだ」
という回答が返って来ました。
次に、Cグループつまり下から2番目の学生たちからは、
「僕たちには、とてもベンチャーを起業できるような技量はない。
だから、仕方ないけど大企業で働くよ」
という答えが返って来ました。
有名なスタンフォード大学のMBAですから、
大企業からは引く手あまたなのです。
そして、成績順で最後の順。Dグループの学生たちからは、
「残念だけど、僕たちは、
ビジネスで打ち勝っていけるだけの実力がない。
だから、ビジネスは諦めて
公官庁や政府機関で働きます。」
というため息混じりの返答が返って来ました。
そこに、日本から官僚が
留学生として派遣されてきました。
そこでクラスメートたちは、
「きみは官僚なのに、何故、こんなに優秀なのだ?」と
盛んに尋ねたそうです。
おまけに、「本当は、一番優秀なヤツは
中退組だよ。ビル・ゲイツのようにね」。
スタンフォード大学では
こういったことが本当に当たり前のようです。
スタンフォードでインタビューを行った
日本人MBAホルダーは、
ビジネススクールの同級生にとても出来る仲間がいて、
修了と同時に仲間たちとベンチャーを起業した。
仲間たちに加えて、教授も出資してくれた。
結局ダメだったけどね。
でも、彼に実力があるのはわかっているので、
一度、それぞれ仕事について、
機会を見たら、また、一緒に起業したい。
それが、インタビューの相手、
女性でしたが、から聞いたことです。
■欧州のビジネススクールの修了生が求めるキャリアは?
スタンフォードの例を見ますと、
起業を志す修了生が少ないとされる
日本のビジネススクールの有り様がおかしいのでなないか?
と思えて来ます。本当にそうなのでしょうか?
私は今年の3月にドイツとフランスに出張しました。
ドイツのストゥットガルドにある
有名な大学の理系の学生向けには、
必須科目としてアントレプレナーシップの
講座があるそうですが、
300人の受講者の内、卒業後、
実際の起業に至るのは10人に満たないそうです。
フランスにおいても
国内第2位の実力を誇る
ビジネススクールには、
テクノ・アントレプレナーシップの
コースが設けられていますが、
そこでも、コース修了者で
実際に起業する者は
1%に満たないと話していました。
このように、日本だけが
例外でないことがご理解いただけると思います。
■九州大学ビジネススクール(QBS)の修了生は?
それでは、QBSの修了生はどうでしょうか?
おおよそ一学年の在校生は40人となっていましが、
昨年の卒業生では既に5人が起業、
あるいは、起業準備に入っています。
スタンフォードまでとは行きませんが、
ドイツ、フランスに比べると
非常に高い起業率ですね。
この先どうなる事かと、多少心配にもなってきます。
■ベンチャーの成功確率はどのくらい?
さて、前置きが長くなってしまいましたが、
本題です。
ベンチャーの「成功」について
考えてみましょう。
何を持って
ベンチャーの「成功」とするのか
実は、千差万別、いろいろな定義があって、
一つとすることは
難しいというのが本当のところです。
例えば株式公開です。
アメリカだと
イニシャル・パブリッシング・オファー(IPO)と
よく言われます。
IPOは一つのメルクマールにはなりますが、
果たして、IPOを果たした企業が
「成功」した企業と言えるのでしょうか?
次に、企業の成長があります。
「成長」と一口でいっても、
年商、従業員数、店舗数、それぞれの伸び率、
あるいは資産規模など、いろんなものを
測定尺度とすることが可能です。
あるいは、生き残ること、
つまり「生存」していることも
成功と言えるかも知れません。
このベンチャーはどこまで
地域に貢献しているか、なども
成長を示す一つの物差しと
考えることもできます。
このように、何をもって
ベンチャーの成功と捕らえるかは、
各々の立場で異なるものでしょうし、
コンテクスト(文脈)の中から
最適なものを選ぶしかないというのが
実際です。
ところで、この「成功の定義」には敢えて目をつぶると、
ベンチャーに携わるものの通説として、
「ベンチャーの成功確率は1000に3つ(せんみつ)」
と囁かれて来ました。
日本で尋ねても、
例えばアメリカのベンチャーキャピタリスト
に尋ねても、不思議なことに
1,000に3つ、つまり3/1,000だとよく言われます。
この数字が正しいかどうかは定かではありません。
但し、極めて成功の確率は低いということだけは
真実のようです。
■ベンチャー成功率に関する2つ実証研究
2つの実証的な例をご紹介します。
アメリカで、1994年~2004までの10年間の
インターネット分野の起業家の調査結果ですが、
アイデアを持っているという起業家は約250万人おり、
この中から実際に事業計画を紹介される人間は1/5の50万人。
この50万人の中から、
ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達に
成功するのが3,000人~5,000人。
これは紹介された起業家の1/174しか
出資を受けていない計算になります。
そして、VCからの投資を受け入れ、
実際に株式公開を果たすか、
あるいはM&Aで高く株式を売ることができた
企業は、600社程度ですので、
投資家に紹介された50万件を分母にとると、
1/833となりますので、
先ほどお話した3/1,000までも届きません。
初回に自己紹介させていただきましたが
私の前職は銀行系ベンチャー支援財団です。
事業計画を審査し、
審査にパスした企業を
支援する業務に従事していました。
その組織の設立以来、
20年間に寄せられたビジネスプラン
(BP:事業計画)が2,600件。
このうち、支援を決めたBPは207件の8%。
支援企業のうち、
IPOに至った件数というのは4件ですので、
申請件数から考えると本当に0.15%となり、
まさに1.5/1,000というような計算になります。
本当に真摯に厳しく審査を行い、
1割を切る企業しか
選抜していないにも関わらず、
成功に至るものは本当に一握りしか過ぎません。
勿論、時間の経過とともに
成功企業数は増えるかも知れませんが、
反対に倒産に至る会社も
増えるのかも知れません。
この2つのデータからも
ベンチャーの成功確率が極めて低いことは
ご理解いただけると思います。
■ベンチャーの生存について
それでは、次にベンチャーの
「生存」について考えて行きましょう。
この「生存」するということは、
倒産だとか消滅の対極にある言葉となります。
成功と同じように、
実証研究を見てみますと、
アメリカでは開業後6年間に
生存している企業の確率、
つまり生存率の調査結果、
生存率が1番高い製造業で47%、
すでに5割を割り込んでいます。
小売業で38.4%、サービス業で40%
というデータが示されています。
この以外の実証研究においては、
4年後の生存率は40%という報告もあります・
イギリスの生存率の研究では、
企業年齢と消滅の関係を検討しています。
消滅は、企業歴2-3年目にピークを迎え、
年換算で20%を示しています。
しかし、業暦が積み上げられて
10年を超えると
年率7%程度に下がります。
つまり、創業後、2-3年目から5-6年目までの
消滅確率が非常に高く、
その後、徐々に生存率は高まってくる
という傾向が示されています。
■成長優先か、生存優先か
日本のベンチャーの現場では、
起業家の口から、会社の方針について、
『生き残るために「生存」を優先する。
「成長」を指向すると、大きな冒険となり、
心配の確率も高くなる。だから、生存優先でいく』
という言葉を、本当によく耳にします。
しかし、欧米の実証分析の結果を見ると、
「生存のための最大の戦略とは。成長してしまうこと」
であることが示されています。
高い成長を遂げた企業の生存率は80%近いのに対して、
成長率の低い会社の生存率は30%に満たない
という数字が示されています。
一見すすると、「成長」と「生存」は
別の方向だと思い勝ちですが、
実際には「生存」するためには
「成長」するしかないということが
はっきりすると思います。
視点を変えて、雇用創造からみた
地域貢献に関して見てみると、
私が行った調査では、
10年間で新規開業企業の35%が消滅してしまいます。
しかし、生き残った企業の
1割強は群を抜いて成長を遂げており。
その1割強の企業の雇用創造は、
全体の70%に達しています。
結局、地域のためにも、
起業し生存している企業よりも、
成長を遂げた企業の貢献が
非常に大きいことがご理解いただけると思います。
■ベンチャーを起こすにあたって考えるべきこと
リスナーの皆さんには、起業を志す方も多いと思います。
そこで、そんなリスナーの皆さんにエールを送りたいと思います。
シリコンバレーで起業経験を持つ友人は、
「シリコンバレーでは、起業するときに
清水の舞台から飛び降りるというような発想はしない」
と繰り返し語っています。
一か八かでやると
結果は思うように付いて来ません。
宝くじを買うようなものでは、
万々が一にしか成功しませんし、
成功したとしても
偶然以外の何者でもないかも知れません。
大切なことは、
いかにダウンサイドのリスクを抑えて
アップサイドのリスクを極大化するか
という事だと思います。
その方法を冷静に考えればよいのです。
例えば、会社の財務リスクと
個人のキャリアのリスクを一緒にしない
ということです。
こうしておけば、万一、会社が倒産しても、
チャレンジした結果が評価されて、
転職してもよりよいキャリアが獲得できるのであれば
失敗のリスクが高いということにはなりません。
挑戦してもよいけれど、
挑戦することによって、
職場も会社もキャリアも
なくしてしまうことになるのであれば、
やり方をもう少し
工夫した方が良いかも知れません。
最初に笑い話で始めましたので
最後も笑い話で締めたいと思います。
その友人が笑って話してくれたことですが、
「最大のリスクヘッジの方法って何か知ってる?
実はは夫婦共稼ぎだよ」
片方が地道に稼いで、
片方が思い切りベンチャーでチャレンジする。
そうすれば、いつかは必ずどちらかが成功するし、
お互いに好きなことに全身全霊打ち込めるだろ。
生存率、成長率ともに低いベンチャーですので、
是非とも、このジョークを参考として、
最適な形で、起業に挑戦していただきたいと思います。