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2008年01月08日 08:00

国の競争優位 (イノベーション/永田)

■国の産業競争力に関する報告
今回は、
国の産業競争力の捉え方についてお話しします。
国の産業競争力が、
どのようなレベルにあるのかという問題は、
社会的な関心を集めるトピックの一つです。
例えば、
国の競争力に関する何らかのランキングが発表されると、
それがマスメディアに大きく取り上げられることがあります。


アメリカには、
競争力評議会(Council on Competitiveness)、
略称をCOCという機構があります。
COCは、自国の産業競争力を国際比較の観点から
分析・評価し、それを踏まえた将来の政策課題を
提言する文書を公表してきました。
1999年にCOCが発表したレポートでは、
各国のイノベーション・インデックスという指標が
計測されました。
イノベーションをどう捉えるのかということ自体、
非常に難しい問題ではありますが、
この指標は計量経済学的な方法により、
どの国が長期的に将来のイノベーションを
リードしていくのかという点を予測したものです。
指標を比較した結果、
長期的に将来のイノベーションを
リードしていく国は日本であることが示され、
これは日本のマスメディアにも大きく取り上げられました。
また最近では、同じくCOCが発表した
”Innovate America”(通称「パルミサーノレポート」)
というレポートが注目を集めました。


こうしたレポートの内容は、国のランキングにおける
日本の順位のみが注目されてしまい、
評価結果だけが一人歩きする傾向があります。
そこで、今回は、そもそも国レベルの競争力は
どのように捉えられているのかという、
レポートの背後にある理論的な考え方を
ご紹介したいと思います。


■国の産業競争力を捉える理論的枠組み -ダイヤモンドフレームワーク-
ハーバード大学経営大学院の教授であり、
競争戦略論の大家として知られる
マイケル・ポーターの考え方をご紹介します。
ポーターは、1999年のCOCレポートで
イノベーション・インデックスの開発にも関与した研究者です。
国レベルの競争力に関する彼の考え方は、
1990年に出版された「国の競争優位」
という著書に示されています。


国際比較には、様々な経済指標が用いられます。
しかし、国レベルの競争力を捉える上では、
経済全体の指標をみるのではなく、
まず個々の産業部門に注目し、
その生産性を決定する要因を
分析する必要があると、彼は考えました。
そして、産業競争力の4つの決定要因を挙げています。


第1に、要素条件と呼ばれる要因であり、
生産活動のための投入要素を意味します。
具体例でいえば、
熟練労働力やインフラストラクチャーなどです。
第2に、需要条件と呼ばれる要因です。
これは、国内市場における製品やサービスに対する
需要の状態を意味しています。
例えば、国内に要求水準の高い顧客が存在することが、
企業のイノベーションを加速させると考えられています。
第3に、その産業に関連する産業ないし支援産業、
例えばサプライヤーが、
それ自体競争力を持った産業部門として
国内に存在することが挙げられています。
第4に、企業間競争の程度や、企業の競争戦略の特徴です。
例えば、国内に強力なライバルが存在すると、
激しい企業間競争を通じてイノベーションが促進され、
当該産業の国際的な競争優位が構築されると考えられます。


以上の4つの要因を結ぶと、
ひし形の図形が描かれることから、
ポーターはこの分析の枠組みを
「ダイヤモンド」フレームワークと呼んでいます。
彼は、この枠組みに基づいて、
貿易が盛んな10カ国の詳細な比較研究を実施しています。


ポーターは、これら4つの国内的な要因が、
企業間競争を刺激する条件にあるとき、
イノベーションが活発に行われ、
国レベルの産業競争力が構築されると考えました。
したがって、企業間競争を制限する要因については、
国の競争力を弱めるものとして否定的に評価しています。
例えば、日本の政府は技術研究組合を主導し、
企業間の共同研究を推進する試みを
しばしば行ってきました。
こうした競争制限的な施策に対して、
彼は非常に批判的な立場をとっています。


しかし、このような施策に対するポーターの批判は、
やや一面的だと私は思っています。
ある国のある産業部門が、
イノベーションを実現するための
資源を十分に蓄積していない段階にあるときには、
その資源の効率的な使用を目的とした
政府による企業間の利害調整は、
イノベーションを促す上で
一定の効果を持つと考えられます。
その意味で、企業間競争と政府は、
イノベーションの実現過程で相互補完的な役割を
担っているといえるでしょう。
企業間競争のみを
イノベーションの促進要因として想定する分析の枠組みは、
十分に成熟していない産業部門の競争力評価には
適用できない場合もあります。

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