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2008年02月27日 08:00

医薬品産業について(イノベーション/永田)

前回は、
国際的な競争劣位にあるとされてきた
日本の産業の事例として
化学産業を取り上げ、
特に石油化学メーカーにおける
製品開発戦略の課題に
言及しました。
今回は同じく産業分類上は
化学産業に属する
医薬品産業を取り上げ、
その戦略課題について論じます。


■成功パターンとの乖離
日本の医薬品メーカーの中には、
相当の製品開発力を持つ
企業も存在しますが、
世界的な規模で主要な
コンペティターたり得ている企業は
ごく僅かであり、
医薬品産業全体としては
やはり競争劣位にあると
みられています。
前回伊丹教授の説として紹介した
成功パターンとの乖離
(技術蓄積が
生産活動を通じてではなく
主として研究室で行われること、
予め焦点が決まった分野に
チーム力を集中するという
パターンがとり難いこと)は、
医薬品産業にも
当てはまると考えられます。


■企業規模とイノベーションの関係
前回、戦略課題との関連で
企業規模の問題を論じましたが、
この点は、製薬企業における
イノベーションの決定要因を
考える上でも極めて重要です。
それは、取り分け新薬の開発には
巨額の研究開発費が必要とされ、
研究開発期間も長期に亘るため、
いち早くプロダクトイノベーションを
実現する上では、
企業規模の大きさが
明らかに有利に作用すると
考えられるからです。


■医薬品産業における合従連衡
実際、近年の医薬品産業では
研究開発費の拡大を
一つの目的として、
世界的に企業間の
合従連衡が進展しています。
日本でも2005年に、
三共と第一製薬が
ホールディングカンパニーとして
第一三共を発足させ、
同年、
山之内製薬と藤沢薬品が合併して
アステラス製薬が発足するなど、
大手製薬企業間での経営統合や
合併による業界再編が進展しています。


■業界再編がイノベーションに及ぼす影響
では、このような業界再編は、
医薬品のイノベーションに
どのような影響を
及ぼしつつあるのでしょうか。
この点については、
私が4年程前から関与している
別の共同研究プロジェクトの中で
分析が進められています。
そこでは、合併・統合が
イノベーションに及ぼす影響は、
当事者企業の事業ドメインにおける
差異や類似性によって
異なるのではないかという
仮説の検証が行われています。
 

合併等を行う企業が
同一の事業ドメインにある場合、
特定の製品分野における
市場占有率が大きくなり、
潜在的なライバルを
排除することができるため、
イノベーションを
実現することによって得られる
利益の専有可能性が
高まると期待され、
このことがイノベーションを
活発化させる可能性があります。
第一三共は、このケースに該当します。
第一製薬と三共はもともと
循環器、免疫・アレルギー、
癌、感染症などに関連する
医薬品開発を行っていた点で
共通していました。


他方、合併等を行う企業が
異なる事業ドメインにある場合、
研究開発分野の多様性が大きくなり、
技術機会の源泉となる情報源も
多様化するという経路を通じて、
イノベーションが活発化する
可能性があります。
これに該当するケースは、
アステラスです。
アステラスが医薬品開発を
行っている領域のうち、
泌尿器、循環器・糖尿病は
山之内のみが関与していた領域であり、
中枢、感染症、炎症・免疫は
藤沢のみが関与していた領域です。


この点に関する我々の仮説検証は
まだ完了していませんが、
これまでの分析結果は、
ほぼ仮説を支持しています。
そうであるとすれば、
合併等を行う企業は、
それが事業ドメインの
差異や類似性に鑑みて、
イノベーションプロセスに
どのようなメリットを
及ぼす可能性があるのかを
考慮した上で、
事業再編に取り組む
必要があると言えるでしょう。


■ライフサイクル・マネジメント
医薬品メーカーの
製品開発戦略を考える上で、
もう一つ重要なトピックに
触れておきます。
先にも述べたように、
医薬品開発には
巨額の研究開発投資を
必要とするため、
イノベーションから得られる利益の
専有可能性を確保することは、
取り分け重要な戦略課題になります。
その専有可能性メカニズムのうち、
特許の重要性が医薬品産業では
他産業に比して高いということも、
以前述べたことがあります。
通常、新薬に対応する発明は
一つの化合物です。
この点は、非常に多くの
発明的要素によって構成されている
組立型の製品とは異なっています。
しかし、新薬がもたらす利益は、
その化合物に関する
物質特許だけ取得しておけば
十分に確保できるというものでは
ありません。
その化合物の製法や
用途などに関する周辺特許も
計画的に取得しておくことが
肝要です。
そうしておけば、
物質特許のクレームが
維持できなくなった後も、
それら周辺特許のクレームで
後発品を排除することによって、
事実上の権利期間を
延長させることができます。
つまり製品ライフサイクルを
延長させることによって、
研究開発投資の
回収を図ることが可能となります。
このような考え方に基づく取り組みを、
製薬企業は
「ライフサイクル・マネジメント」と
呼んでいます。
我々が2004年に行った調査の結果、
すでに多くの製薬企業が、
何らかの形で
ライフサイクル・マネジメントに
取り組んでいることが分かりました。


ここで述べた戦略課題は、
自ら新薬開発を行う企業に
関するものです。
ジェネリック製品と呼ばれる
後発品の普及は、
産業の国際競争力とは
別の経路を通じて
大きな社会的利益を
もたらすものです。
後発品メーカーの戦略課題については、
機会を改めて論じたいと思います。

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