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2008年01月02日 08:00

企業の戦略マネジメントとバランススコアカード(その2):九大のQUEST-MAP(産学連携マネジメント/高田)

前回は、
バランススコアカード(BSC)の
概要についてお話をしました。
今回は、日本の大学で
初めてBSCを導入して
マネジメントに取り組んでいる
九州大学の事例を紹介します。


■背景
2004年4月の
国立大学法人化に伴い、
国立大学はこれまでのように
国の定める通りに運営するという
やり方が通用しなくなりました。
自分達の大学の将来像は
自分達で責任を持って描き、
自分達で計画を立て
実行していくことが求められます。
現在の国立大学は、
中期目標・中期計画という6年1期の計画を
国に提出することが義務づけられています。


そのため、九州大学では、
梶山総長をはじめ
各部局長のリーダーシップの下で、
「世界最高水準の教育拠点の形成」を掲げ、
「4-2-4アクションプラン」など
数々の改革に取組んでいます。
最近では、一層のグローバル化や
2011年に迎える創立100周年の
記念事業の推進、また、
「三位一体の改革」など、
新たな課題への対応や取組みも開始しています。


これらの多岐にわたる
取組みを実施する中で
当然ながらいろいろな問題も生じます。
例えば、旧来から大学が持っている
“自由と多様性”を尊重しすぎることで、
部局など個別組織や
その構成員における具体的な取組みを
大学全体の方針や戦略と
調和させることが難しいという
状況も生まれました。


簡単に言うと、個人が
学問・教育の自由を偏重するあまり、
全体ではバラバラで組織力を
発揮し得ない、という状況です。
また、「木を見て森も見ず」といった具合に、
構成員自らのやっていることが
全体で見ればどの部分に該当するかが分からない、
という声が学内から聞かれるようになりました。
大学の組織改革を進めていくには、
この状況を改善することが求められます。
そして、大学の方針や戦略の
全体像を分り易くオープンにし、
組織の構成員で共有することが
必要だという問題意識が生まれました。


そのため、2006年2月に
総長特命チームを設け検討を行い、
BSCを活用した組織マネジメントに
取り組むことになりました。
その結果策定したのが、
『QUEST-MAP』です。
この取組みは、
全国でも初めての試みです。


ちなみに、“QUEST”とは、
文字通り“探究する”という言葉で、
九州大学自らがあるべき姿と
その実現方法を探究し続ける、
という意味が込められていますが、
同時に、“K(Q)yushu University Empowered by Strategy”、
つまり“戦略によって強くなる九州大学”
という思いが込められています。


■『QUEST-MAP』の内容
『QUEST-MAP』の詳細は、
九州大学のホームページ
http://www.kyushu-u.ac.jp/university/change/index.php
に掲載されていますが、ここでは概要を説明します。

九州大学では、
BSCの活用にあたり、
大学という特性を重視し、
通常の「財務」「顧客」
「プロセス」「人材」という視点とは異なり、
「学外ステークホルダー」「学内ステークホルダー」
「教育研究環境」「財務・業務運営・評価」、という
独自の4つの視点を設けました。


まず重要なのは、
「学外ステークホルダー」の視点です。
大学の外のステークホルダー、
つまり学生の親御さんや広く一般市民、
あるいは地域社会や世界から見て、
高い価値を提供し続けることが重要ということです。


次に「学内のステークホルダー」の視点。
学外のステークホルダーに
満足してもらうためには、
学内のステークホルダーである
教職員や学生が高いレベルで満足できる、
より良い大学づくりに取り組むことが必要です。
それを実現するためには
「教育研究環境」を整える視点が必要です。
現在、九州大学は福岡市の西にある
伊都キャンパスへ移転中ですので、
どうやって良質の教育研究環境を
整えるかという視点は、
ことさらに重要なのです。
そして4つめに
「財務・業務運営・評価」の視点です。
これは、何よりも自らの
業務運営のあり方を良くしないと、
前述の3つの視点で満足できる
レベルに達することは出来ないという考えです。
また、国立大学は法律で
外部評価を受けることになっていますので、
ここには評価の視点も取り入れています。


以上の4つの視点を用いて、
九州大学では、独自の
『QUEST-MAP』の策定を開始しました。


■『QUEST-MAP』の策定プロセス
具体的には、
2006年2月から学内で
ワークショップ方式による策定を開始し、
大学全体の経営戦略をまとめた
『九大QUEST-MAP』を策定しました。
また、農学研究院と九大病院では、
個別部局単位の戦略をまとめた
『農学研究院QUEST-MAP』と
『九大病院QUEST-MAP』を策定し、
この2007年度からこれらのMAPに
基づいた実際の運用試行を開始しています。


部局での『QUEST-MAP』を
作成するプロセスは、
とてもユニークなものでした。
構成員が集まった
ワークショップの場で議論を繰り返し、
将来像やその実現方策を煮詰めていきました。
農学研究院では、
ミッションまで見直すことになったのですが、
自らの組織が社会で
どんな役割を果たすべきなのか、
かなり長い時間をかけて議論が行なわれ、
言葉の1つ1つを吟味し、最終的に
新しいミッションとしてまとめ直したのです。
このプロセスがあったために、
組織の目指すべき方向性や
重点的に取り組まなければならない課題などが、
部局内の構成員に
広く周知されることとなりました。


■『QUEST-MAP』の特徴
『QUEST-MAP』の特徴としては、
1)大学や部局の多岐にわたる
改革への取組みの全体像を、
構成員一人一人が俯瞰し
理解し易いよう可視化したこと、
2)その策定過程において
ワークショップなどを活用し、
関係者による内容の理解共有を
深める仕組みを導入したこと、
3)改革の実現に向けた
関係者のコミットメントやアクションを引き出し、
さらにその結果を検証して次の施策に活かすという
「フィードバックの仕組み」を学内に定着させるため、
多面的でかつ具体的な数量指標を
設定する工夫を行ったことの3点があげられます。


■『QUEST-MAP』の今後
『QUEST-MAP』は、
九州大学が他大学に先駆けて
初めて取組んでいる試みです。
まだ、運用試行を開始したばかりですが、
例えば、九州大学が取得した
財務格付けにおいて、
改革への取組みの姿勢が
高く評価される理由となったり、
企業による寄附講座の設置につながったり、
更には、経営協議会や
部局の外部諮問会議などで
大学の経営のポイントについて
関係者の理解が進み、
その結果、活発な議論を誘発するなど、
既に各所で成果が現れ始めています。


これからは、
『QUEST-MAP』の
学内外への浸透を図ることで、
2010年度から始まる
次期中期計画の策定や、
各部局で将来構想を策定する際など、
様々な場面で活用することになります。


また、BSCに取り組んでいる
民間企業やBSCを取り入れている
海外の大学などと横の連携を取り、
導入や運用にあたっての
互いの悩みや成功の秘訣を
共有できる機会を作ることも考えられます。
それによって、多くの組織が、
自らの将来像を描き、
それを実現するためのツールを
手に入れられることを
目指したいと考えています。

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